占い探偵Mrムーン「ロゼカラーの少女」


第3話:「ロゼの秘密」


(フォーチュンカクテルバー…あ、ここだ)
ユキはメモに記された店の前にたどり着く。

木製のドアを両手で開けると店内はオレンジ色に染まっていた。
間接照明に照らされていて、なんとも優しい雰囲気。

「こっちだよ」

カウンターの奥の席からムーンの手が上がる。
ユキは吸い込まれるかのようにムーンの隣に座った。

「このロゼはイケると思うよ」
『ロゼってあの絵と同じね…』

ムーンはユキのグラスに注いだボトルを元に戻した。

「キミ、おとめ座だよね?」
『どうして?』
「そのハキハキとした口調はおとめ座だよ(笑)ついでに昨日、免許の更新だって…」
『あ…うん、誕生日はまだ3週間先』
「じゃ、そろそろ真実を受け入れるべきだね」
『何の話ですか?』

ムーンはグラスの上でライターをはじいた。
ユキはワインの上に映った炎へと吸い込まれる。

「月占いさ。おとめ座のニュームーン」
『月占い…?』
「明晩、月と鏡の中に真実が見える」

なんとも不思議な感覚。
狐とでも話しているかのようだった。

「その前にキミの心を見る必要がありそうだ」
『……』

壁に反射する照明でユキの顔にも赤味が帯びていく。
「さ、話してくれないかな?彼のこと」

ユキは丸いグラスにつけた口を戻して語り始める。

画廊での出会い。
カフェで偶然再会したこと。
指輪を受け取ったこと。
そして彼が交通事故で死んだこと…最後に受信したメール。
ユキは彼との今日までをすべてムーンに話した。

『ロゼカラー…、私に似ているの。雰囲気というか顔というか…』

空いたグラスを満たしながらムーンが答える。

「ああ、確かにキミに似ているよ。ただ…」
『ただ…、なに?』
「絵よりもキミは彼のことを知らなさ過ぎる」
『……』
「思うに…」

ムーンは半分になったタバコをもみ消した。

「キミの中にいるユウイチは謎が多すぎる。違うか?」
『そうだけど…でも』

ユキの言葉から力が抜けていった。
少し酔ったせいもあるのだろう。

「彼の出身は?親は?なぜ東京に戻ってきた?」
『……』
「はっきり言おうか…」

(キーン…)
グラスのふちがムーンの指で弾かれた。

「絵に描かれた少女は間違いなくキミだ」

ユキの頭の中が真っ白になる。
気付いていながらも否定していた事実。
思い出のすべてがリセットされた感じだ。
ユウイチ…何か言ってよ!
お願いだから…。
あなたは誰なの?
わたしはあなたの何?

ムーンにはユキの心の叫びが聞こえていた。

「明日、閉館後のギャラリーで会おうか?」

ユキは黙ってうなずいた。
店を出ると細かい雨が降っていた。
空を見上げれば冷たい粒が当たって気持ちがいい。
降りたところよりも一つ先の駅に向かって歩きはじめる。
傘は閉じられたままだ…。


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