占い探偵Mrムーン「雨上がりの奇跡は涙色」
第3話:「ハンカチーフ」
たまたま連休だったのかも知れない。肩透かしを食らったヨウコは自宅へと帰るしかなかった。玄関に入るとすぐに母が声をかけてきた。
「ね、ずいぶん前にあんたが言ってたバイク屋の人ね…覚えている?」
「うん、その人がどうしたの?」
ヨウコは一瞬ドキッとした。丸くなった目を冷静な対応でごまかすも、どこか居心地が悪くて仕方がない。しかし、本当に驚かされたのはその直後である。
「事故に遭ったのよ。意識不明の重態だって…あなたも気をつけなさいね」
死んでいないことに安心していいのかどうかを迷っていた。事故の現場はリュウのトラックとぶつかりそうになったあの交差点である。
「お母さん、病院は?知ってるの?!」
慌てふためくヨウコを見かねた母親は「市立病院じゃないかしら…」と教えてくれた。カバンを放り投げて再びドアを開けたヨウコは来た道を急いで戻った。リュウが搬送されたと思われる病院は駅の反対側にある。踏み切りもなく、線路をまたぐ歩道橋を渡り終えた頃には全身が熱くなっていた。
受付で名前を確認するとリュウはまだ集中治療室の中だという。会えないのを承知で階段を上がったヨウコは固く閉ざされたドアの前に座り込んだ。手術中と侮ヲされた赤ランプがいっそう不安を駆り立てる。
(神様…お願い、彼を助けてあげて…)
これほどまでに誰かの無事を祈ったことはない。しかし、祈る気持ちとは裏腹にヨウコの涙は止まらなかった。ボロボロになりそうなヨウコの顔に一枚のハンカチーフが差し出された。
「キミ、これを使いたまえ…」
声のする方を見上げると病院には相応しくない格好の男が立っていた。ブラックスーツに丸いレンズのメガネ、おまけにステッキまで持っている。どう見てもここの患者とは思えないその姿は滑稽を超えて怪しさの象徴とも言える。
「ありがとう」
ヨウコはほかに拭うものもなかったので、仕方なくにそのハンカチーフを目頭に当てた。
「ところで、キミは彼の恋人なのかね?」
男は目の前の集中治療室を指してそう聞いてきた。
「わたしはまだ…いや、違います」
慌てて否定したヨウコを見て男はさらに質問を続けた。
「となると、妹か友人になるのかな?」
「それも違います…」
「では、他人であるキミが泣く理由を教えてくれないか?」
「……」
ヨウコは借りたハンカチーフをギュッと握り締めて男をにらんだ。
「どうして、そんなこと言わなきゃならないんですか?」
涙声で聞き返すヨウコにも男の撫槝変わらなかった。それどころか、正面に座り込んでヨウコの目をじっとのぞき込む始末である。
「なに…?なんなの?」
小刻みに震えるヨウコを見て、男はゆっくりとそして静かに口を開いた。
「私も彼を助けてあげたいのさ…ただ、それだけ」
男はヨウコの同意を求めるかのように片目をつぶった。
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