二殺のゼロ「俺の金じゃない」
第3話:賑やかな夜
その冬の終わり頃さ。店に物騒な客がやってきた。隻眼の大男、顔にはでっかい傷があってな。この店ごと断ち切れるんじゃねえかと思うほど、でっかい刀を背に負ってた。まだ日暮れ前だったな、まだ外は明るかった。
気の早い客が二、三人ほど入ってたが、その大男が店の真ん中に──そう、丁度あんたが立ってる辺りさ──腰を下ろしたら、先を争って出ていったよ。無理もない、一目で判る物騒な男さ。間違っても関わり合いになりたくない、そんな類の男さ。
正直俺も逃げ出したかった。だが店を空けるわけにもいかん。男に酒を出して、あとはひたすら祈ってたよ、早く飲み終えて出てってくれるようにってな。ところがだ、男は舐めるようにちびちび飲むだけで、酒は一向に減りやしない。
そうこうしてるうちに、二人めが入ってきた。今度のは背丈は並だが、抜き身の剣を腰に下げててね。ちょいと触れただけで指の四、五本も落ちそうな、切れ味鋭い長剣さ。その客の目つきもまた、刃に劣らぬほどにぎらぎら光ってた。
新参の客は大男に歩み寄って、小声で何か呟いた。知り合いか、と思ったんだが、新参はそのまま店の奥まで歩いて、壁に寄りかかっちまった。俺が酒を持ってくと、立ったまま飲みはじめるんだ。大男と同じように、ちびりちびりってな。
やがて三人めが来て、四人めが来て……店は物騒な客だらけになった。
ほとんどは得物を持った危険そうな男だったが、中には魔道師風の客もいたな。女も一人いたよ、人間の指を髪に飾った女が。美人だったが、お近づきになりたいとは思わなかったね。
陽が落ちて、馴染みの客が来る時間になった。けどみんな、店の様子をちらりと覗いただけで、そそくさと帰っちまった。無理もないこった、判るだろ。
不気味ったらなかったぜ。誰も一言も話さず、只酒を飲んでる。ちびりちびり、ってな。何かを待ってるのは確かだ。目を向けないまでも、全員が扉のほうに注意を向けてたからな。けど、何を待ってるのかはさっぱりだ。
俺は気を落ち着けようと、店の酒を何杯も飲んだ。おかげで腹は据わったが、ちっとも酔えやしなかった。判るだろ。
夜が更ける時分にゃ、店は十二人の物騒な客で一杯だった。いいか、十二人だぜ。
そして最後に──例の客がやって来た。金貨を預けに来るあの客さ。
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