小さく短い恐怖 4/3更新


第12話:『もじゃもじゃ』


「あ、もじゃもじゃのおばちゃんだー。」
3歳になったばかりの娘が、家に遊びにきていた私の従姉に向かってそう言った。
たしかに従姉はパーマをかけていて、子供から見ればもじゃもじゃかもしれない。
「こら、毎週遊びに来てくれておみやげを持ってきてくれるまさこ『おねえさん』になんてことを言うの。」
と従姉に配慮しつつも、子供の表現力はおもしろいなと思っていた。

しかし次の週、従姉は不慮の事故で亡くなってしまった。
そのお通夜の際に棺の中で眠る従姉を見て娘はこう言った。
「おばちゃん、もじゃもじゃじゃなくなっちゃったんだね。」
従姉の髪型はパーマのままだった。
娘はその場に居合わせた私の弟に向かって
「おじちゃん、肩がもじゃもじゃだね。」
弟は短髪だし、体毛もけして濃くはない。
しかも肩とは?

次の次の週、弟は病気で亡くなってしまった。
娘の言うもじゃもじゃの正体にうすうす気付いた私は、娘にはそれを黙っていた。
しかしいつか本人も気付くかもしれない、もじゃもじゃの正体に。

それから10年たった。
ここ数日、娘が私に目を合わせなくなった。
話をしようとしても俯いてしまい、けして私の顔を見ようとしなかった。
それが思春期だからなのか、私の肩に何かあるのを見てしまったからなのか…。



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