小さく短い恐怖 4/3更新


第17話:『人ごみ』


俺は人ごみが嫌いだ。

と言っても、よくあるような「人がたくさんいるのを見ると気持ち悪くなる」のではなく、「人ごみの中にいつも同じ男がいるのが恐い」のである。

その男は去年俺が高校に入学してから1ヵ月後くらいから現われだした。

その男は行き交う人ごみの隙間から仁王立ち状態で俺をにらんでくる。

その男はいつも何かしら刃物を持っている。

その男は本来ならその場で取り押さえられてもおかしくないのに、誰もその男に気付いていない様子である。

その男はなぜか俺が真っ暗な道を一人で歩いていてもけして現われず、人ごみの中にだけ現われる。

だから余計俺はその男が恐くなり、人ごみに近づかないのだ。

それからずっと俺は人ごみを避け続けて、結果一度もその男に襲われることは無かった。

しかし俺の高校3年間の終了を告げる卒業式の日、整然と並んでいる同級生の中にその男がいた。

もう逃げられない。




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