小さく短い恐怖 4/3更新


第7話:『飛び降りる女子生徒』


この中学校の国語の教師になって2年目、私もここでの仕事に少しずつ自信がついてきていた。
マラソン大会も終わり、カレンダーの端に終業式が見えはじめたある日のこと。
いつも通り仕事が終わり学校から帰ろうと校舎を出ると、左目の上部の隅に人かげが横切った。
ふと振り替えって見ると、ちょうど屋上の美術室の真上に当たる部分に女子生徒がふらっと立っていた。
私が「危ない」と言う前に、それは飛び降りた。
思わず一瞬目をそらしてしまったが、次の瞬間には女子生徒が落ちた付近に駆け寄っていた。
しかし何もない。
女子生徒の体はおろか血すらなかった。
ふと見上げると女子生徒はさっきと同じ場所に同じように立っていた。
次の瞬間、真上にいた女子生徒は再び飛び降りた。
しかし途中までは見えるのだが、下から2メートルくらいの辺りですっと消えてしまった。
このありえない状況に混乱している私の肩を美術の教師であるI先生がポンと叩いた。
I先生は、私を少し離れたところへ連れていき、少しだけ落ち着かせた後、年季の入った背広を整えこう言いだした。
「あれ、私の元教え子なんですよ。といっても17年前のですがね。でね、あの娘、私の子を身籠って、でも私には妻が、別れを切り出したら、ちょうどあそこから、遺書は無かったから学校や妻にはばれないで」
気が動転していたため、全てを聞き取るのは不可能だったが、なんとなく流れはつかめた。
I先生が説明している間も女子生徒は飛び降り続けている。
「いやですよね。どうせ私に対する当て付けでああやって毎年飛び降りているんですよ。まあ私もせめてもの罪滅ぼしでそれを毎年見届けてやっているんですけど…」
グシャ
「ね。お、ちゃんと地面に落ちたか。もう大丈夫ですよ。あれは1回でもちゃんと地面まで落ちると、その日はもう飛び降りませんよ。まあちょっと血やらなんやらがちらばってますが、明日の朝には綺麗さっぱり消えてますんで。それでは。」
I先生が女子生徒の方に向かっていくのを、やっとの思いで止めた。
I先生が私のすぐ脇にスケッチブックを忘れていったからだ。
震える手でスケッチブックを差し出す私に礼を述べながら、
「美術室から彼女の飛び降りを見ているとたまに目が合うんですよ。その目がとても印象的なんで毎年描いてしまうんですよね。」
とスケッチブックを開いて私に見せてきた。
もう私にはいろいろ限界だった。


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