小さく短い恐怖 4/3更新


第8話:『すれ違い』


大学卒業まで約二ヵ月ちょい、俺は今年新しく引っ越した部屋でぼんやり年末を過ごしていた。
前のアパートはぼろくはなかったが、少し家賃が高すぎた。
テレビの年末番組を見ていたらいつのまにか夜中の1時になっていた。
もう寝ようかどうか考えていると、小さく玄関のドアを叩く音がした。
「こんな時間に客?友人かな?」
と思いドアを開けると、そこにはちょうど小学校に上がるかどうかくらいの男の子が素足で立っていた。
「ぼくのママはここにいるの?もうぼくね、ママとじゅうねんもあってないの。」
思わず呆気にとられたが、こんな真夜中に子供が出歩いていては危ないと思い、どこかに違和感を感じつつも、
「ぼ、僕、大丈夫?ちょっともう夜遅くて危ないから、おまわりさんに電話しておまわりさんに君のママを探してもらお…」
「じゃあここにもママはいないんだね!…ばいばい。」
と男の子がドアを閉じた次の瞬間、俺はドアを開けて男の子を探したが、もうその姿はなかった。
いちおう警察に連絡しようと携帯を手に取ると、またドアを叩く音がした。
しかし今度は音がさっきより大きかった。
ドアを開けると、髪を振り乱した30くらいの女性がやはり素足で立っていた。
「ここに私の息子はいますか?!だいたい6歳くらいのかわいい男の子なんです!もう10年は会っていないんです!」
と俺が何か言いだす前に興奮した声で尋ねられて、さっきの男の子のことをやはり違和感を感じつつも言おうとしたが、女性は俺の部屋を一通り見渡しすと、
「ここにもあの子はいないんですね!あああぁ…失礼しました。」
とドアを閉じた。
私はなんとなくドアを開けても女性はもういないとわかっていた。
そしてさっきの親子は永遠に会うことはないだろうと思った。


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