ショートストーリー「エビフライ」


第1話:エビフライ


とある高校の2年2組の教室。
 まさに今からお昼ごはんというタイミング。
 ユキコ、サキ、トモミの3人は机を向かい合わせて座り、それぞれお弁当のふたを開けた。
 ユキコのお弁当の中にはエビフライが二尾入っていた。
 それを何気なく見ていたサキが言う。
「ユキコのお弁当ってよくエビフライ入ってない?」
 ユキコが答える。
「うん毎日入ってるよ」
「え!毎日なの?」
「そ、毎日」
 トモミがご飯をほおばりながら言う。
 「ユキコってそんなにエビフライが好きなんだ」
「うーん、私はそんなに好きでもないんだけどね・・なんで毎日入ってるんだろ・・」
 ユキコのお弁当には、ユキコがまだ小さい頃から必ずエビフライが入っていた。しかも二尾と決まっていた。
 なんで毎日エビフライが入っているのか、少しだけ疑問に思ったユキコは、その日の夜、母親に聞いてみた。
「ねえ、なんでアタシのお弁当って毎日エビフライが入ってるの?」
「何?イヤなの?」
「え、別にそういう訳じゃないんだけど・・」
「ならいいじゃない。ちゃんと食べなさい、美味しいのよ、エビ」
「うん、まあおいしいけどさー・・」
 翌日のお昼、ユキコたち3人はいつも通りお弁当を食べていた。
 すると、二人の男子生徒がやってきてユキコのお弁当をのぞきこんだ。
「あ!本当にエビフライが入ってるぜ!」
「すげー、本当なんだ。毎日エビフライー!」
 男子生徒二人は言いながら去って行く。
 「・・・・・ちょっと、言いふらしたの誰よ」
サキが顔の前に手を合わせる。
「ごめん!アタシだ!昨日、部活の時にちょこっと言った」
トモミもバツの悪そうな顔で言う。
「アタシも部活の時に言ったかも・・」
「もー、やめてよねー。なんか恥ずかしいよ」
「ほんとにごめん」
 サキとトモミは声を揃えて謝った。
 同じ日、ユキコが廊下を歩いていると、向かいから36歳の英語の教師、米田がやって来る。
(あー、米田先生だ。あの人いつも英語で話しかけてくるから苦手なんだよなー・・)
「ハーイ!ミス、タナカ!」
「ハ、ハーイ・・」
「エビフラーイ!インザランチボックス、エブリデーイ!HAHAHA!グレイト!バーイ!」
 そう言って天真爛漫な笑顔で通り過ぎていく36歳米田。
(えー!なんで米田先生までエビフライのこと知ってるの!っていうか英語はあれでいいの!?)
その日の夜、ユキコはエビフライをお弁当に入れないよう、母親に頼んだ。
そして次の日の昼、ユキコがお弁当のふたを開けると、そこにはしっかりとエビフライが二尾入っていた。
「あー!また入ってるー!入れないでって言ったのにー!」
サキがユキコのお弁当を覗き込む。
「あはは、しかもいつものよりでかくない?」
「もー、お母さん絶対にアタシが言ったこと忘れてるよー」
 少し怒りながらも、ユキコはいつもより大きなエビフライにソースをかけた。
 ユキコは家に帰ると早速母親に文句を言った。
「ちょっとお母さん!エビフライ入れないでって言ったでしょ!今日も入ってたじゃん!忘れないでよ」
「え?エビフライ?あーそうだったわね、ごめんごめん」
「もー」
「母さん、忘れっぽいからねえ。そうだ、明日は忘れないようにどっかに張り紙しておいてよ。エビフフライ入れるな!って書いて」
ユキコは冷蔵庫のドアに「エビフライ入れるな!」と大きく書いた紙を貼り付けた。
しかし翌日、ユキコのお弁当にはいつも通りエビフライが二尾入っていた。
「もー!なんなのー!親のイヤガラセ!?」
本当に頭にきたユキコはその晩、家族が寝静まった頃に台所へと行き、冷凍庫にあるエビを全て自分の部屋に隠してしまった。
「これでよし。材料が無ければ作りようがないもんね」
翌日のお昼、ユキコたちが机を向かい合わせている。
「ユキコ、今日もエビフライ?」
とサキが聞く。
「今日は絶っっ対に入ってないよ」
言いながらお弁当のふたを開けると・・・・・
中にはエビフライが3匹きれいに並んでいた。立派な伊勢えびだった。
「キャー!!」                           終



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