完全否定


第1話:始末書


東京の都心。警視庁でも警察庁でもない、そのビルの一室で一人の男が慣れた様子で始末書にサインをしていた。         「こんなもん書く意味あるのかよ」
「形が必要なんだよ。処理はしているという建前がさ」
後ろから覗き込む同僚のぼやきに男は苦笑しながら自らの印鑑を押した。
「だから余計にそう感じるだよ。下手すりゃこの紙一枚で人の命も処理されるんだぜ?」
「今に始まった事じゃないだろうが。あくまでも国家のしてることなんだからな」
もっとも、今作成しているのは、始末書と言ってもあまりに簡素な物で、予め、事件に関する一切の責任の免除と訓戒が書かれており、あとは本人のサインと印鑑だけとなっていた。
「免罪符さ。知ってるだろ?神は懺悔すれば許してくれる」
皮肉を一つ言いながら上司に始末書を提出した。「神は許しても私は良く思ってないわよ…」
彼女の語気には若干の怒りと呆れが含まれている。
「警部は厳しいですね」
「誰でも繁華街で戦争起こせば厳しくもなるわ。」
「不可抗力です。巻き込まれ形だったしロケット砲ですよ?」
「それには同情してる。でもあなたも随分と無茶苦茶したみたいじゃない?…」その言葉にはバツの悪そうな顔で黙るしかなかった。「もういいわ。早く警らに行ってきなさい」
この女警部は、半ば悟った様子で手をヒラヒラさせ彼を追い払う
「了解いたしました…」 ややわざとらしくに敬礼して、そそくさと準備を整える。                      彼、神堂 銀人に降り掛かる荒唐無稽な災難は、記念すべき初日を迎えていた…


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