完全否定
第6話:妄想スパイラル
「そんな訳ないでしょう」妄想に付き合わされ、血圧高くしていた部長もさすがに笑うしかなかったようだ。
「本当なら何か宿泊施設を利用する予定だったのですが、こちらの世界の貨幣を持っていなかったのでことごとく断られました」 失笑を気にも留めず、もっともらしく理由を話す。頭がおかしいというか、逆にこちらが壮大なドッキリを仕掛けられてるような気になってきた。
「ちょっと待ってて。今、君の荷物取ってくるから」自分の机の上に置いておいた鞄を取る。かなり使い込まれていて正直小汚い見た目だ。女の子の持ち物には似付かわしくない。
「返す前に中を確認するから。開けるよ?」
バッグを開けようとすると、一瞬焦ったような顔をして、ひったくるように奪い取った。
「私がやりますから」 そう言うと、中身を一つ一つ丁寧に机の上に置いていく。布切れ、液体の入った小瓶、土産屋に置いてあるような胡散臭いアクセサリーや小物…きっと調べて確認する度に、さっきのような調子で説明するのだろう。少なくとも、身元に繋がるような物はなさそうだ。そして、最後に大事そうにあの時振り回していた杖を取り出す。警棒のような形状に先端の青い石が付いている。 「変身セット…」
「なんですか?」
「いや別に。それよりもアレだ。君が魔法使いで名前が…ほら、えっと…」
「セシリア・マーシャルです」
「そう…それを証明する物は?身分証とか」
「これが」
そう言って首のチョーカーに付いていた銀色の飾りを差し出してきた。年季が入り若干くすんでいてロケットのように開くようだ。中を開くと剣と羽のシンボルが描かれている。
「これは?」
何かの糸口と期待したが違うようだ。
「私が正当な騎士である事の証です」
誇らしげに話す様子が何とも腹立たしい。 こんな事ならさっさと担当部署のほうに引き渡せば良かったと後悔するが仕方ない。
「分かった。もう良い方法が思い付かないから今日だけ泊まって明日帰りなよ」「よろしいのですか!?」思いがけない提案だったのか驚いたようだ。そして、それは少女だけではなかった。
「どうゆうつもり…?」
「今から色々調べたりすると大変ですし、引き渡しも手続き面倒ですから、明日帰ってもらいましょう?事件もウチの管轄外ですよ」「じゃあ、神堂。今日はあなたがここに残りなさい」「え!?いや、ちょっと!」 言葉を返す暇もなく、戻っていった部長。残された自分と少女。 「では、どこで眠れば良いでしょうか?」 すでにその気なのが、若干腹が立つ。
第7話へ
第5話へ
目次に戻る
TOPに戻る
ISM Inc.