動物園


第5話:5


 ゲートへむかう足は軽かった。
 わたしは満足感にひたっていた。動物園を出るときはいつもだが、今年は特にそうだ。娘を連れてきたことで、より大きな満足を得ることができた。
 まったく、すばらしく教育的な施設だ。子供たちに犯罪の愚かさ、恐ろしさを伝えられるだけではない。犠牲者やその家族に、心の平安まで与えてくれる。
 すばらしい施設。すばらしい制度だ。心の底から、そう思わずにはいられなかった。
 飼育員の警備するゲートを抜け、駐車場に着いた。娘のために車のドアをあけてやりながら、わたしはなにげなく訊ねた。
「楽しかったかい?」
「うんっ!」
 娘は力いっぱいうなずいた。
「すっごく楽しかった! また遊びに来たいな。いいでしょ?」
 その言葉と、輝くばかりの笑顔に、わたしはふと不安を覚えた。
 周囲を見まわす。ゲートの方向からやってくる家族づれが目に入った。幼い兄弟は棒きれを振りまわし、ときおり「ばしっ! ばしっ!」と電撃棒の口まねをする。その笑顔は娘と同様、心からの歓喜と満足感に溢れていた。
 わたしは視線を戻した。娘は満面の笑みでわたしを見あげ、来週、それともその次の週末の再訪について、楽しげに語っている。
 不意に、新たな思いが頭をよぎった。――わたしは娘に、罪の愚かさや罰の恐ろしさではなく、もっとほかのことを教えたのではないだろうか。われわれ大人が密かに味わい、ひた隠しにしている――虐待というものの楽しさを。
 心の底から恐怖がこみあげてきた。娘の語りは止むことなく、その笑顔は無邪気に光り輝いている。



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