音楽隊


第1話:ロバと犬


 脚はいまにもちぎれそうなほどに痛む。もはや立っているのも苦痛だったが、ロバは歩きつづけた。この旅を済ませないことには、休むことすらままならない。
 夜道は曲がりくねっていた。大きな岩を迂回したところで、犬に出会った。
「今晩は」犬が言った。
「……お仲間か」ロバはうなずいた。「道理で、やかましく吠えたてないと思ったぜ。なんだい、そのザマは。見られたもんじゃないな」
 岩陰に寝そべっていた犬は、悲しげに自分の身体を振り返った。ロバに目を転じると、痛々しげにかぶりをふった。
「あなたの方も、ひどい有様ですね」
「お互い様か」ロバは痛んだ脚を左右に揺すった。「せっかくの同類だ、しばらく居座って世間話でもしたいところなんだがな。先を急ぐんだ、悪いがこれで失礼するぜ」
「遠出ですか?」犬は目を細める。「その身体で?」
「行かにゃならんのさ、どうしてもな」
「どちらまで?」
「フレーメン」
 犬の表情ががらりと変わった。
「まさか、お目当てはデサンという名の少年ではないでしょうね?」
 ロバは驚きのあまり、疲れも忘れて嘶いた。「なんで知ってる」
 犬は無言でロバを見つめた。ロバは大声で笑った。
「こりゃ傑作だ、おまえ、まさしくお仲間だぜ。どうだ、一緒に来る気はないか?」
 ロバは誘いをかけた。犬はなおも無言だ。
「その身体だ、無理にとは言わんが――」
「おわかりでしょうか」ロバの言葉を犬は途中で遮った。低く、呟くような笑いを漏らす。
「もし可能ならば、私はちぎれんばかりに尻尾を振っているところですよ」
「決まりだ」ロバは喉を振わせ、天を仰いで嘶いた。犬も立ち上がると、その声に合わせるようにして遠吠えを放った。
「行こうぜ」ロバは言った。「おまえが先に歩きな。おまえは鼻が利くからな」



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