音楽隊


第3話:ロバと犬と猫と鶏


 一行はフレーメンの住宅街にたどりついた。しばらく進んだところで、猫が不意に立ち止まった。
「おいしそうな匂いがするわね」
「よく食事なんかする気になるな」ロバは呆れたが、犬は小さく鼻を鳴らした。
「そういう意味ではないようですよ」
 そこは住宅街の一角、小さな林の側だった。木の根元、落ち葉に埋もれるようにして、一羽の鶏が丸くなっていた。
 鶏は怯えている。「君たち……誰? 僕になんの用?」
 ロバは勘が冴えていた。「なんてこった、またお仲間かよ」
「怖がらないで」犬が優しく声をかけた。「危害は加えません」
 鶏は不安を隠そうともしない。「暗いところじゃ、僕は目が見えないんだ。だけど……」淡い光を投げかける街灯にちらりと目をやり、次いで、傍らの猫に顔を向ける。
「君、僕を食べるつもりなの?」
「やめとくわ」と猫。「あんた、ちっともおいしそうには見えないもの」
「わからんかもしれんが、俺たちもおまえの同類だ」ロバは慎重に言葉を選んだ。「そこで確認しときたいんだがな。おまえ、デサンて名のガキを知ってるな?」
「……デサン」鶏は繰り返す。と、不意に甲高い声で「ああ、知ってる、知ってるよ!」
「やはり」犬はうなずく。
「デサン、あいつだ、あいつだよ!」鶏は興奮している。「あいつが、あいつが僕を、こ、こんなふうに……!」
「落ちつけ」ロバが言った。「俺たちは奴の家へ行く途中だ。どうだ、一緒に来るだろ?」
「もちろん、もちろん!」熱くうなずいた鶏は、しかし突然、自信をなくした。「でも、僕目が見えないし、ひょっとして足手まといじゃ……」
「心配するな。連れてってやるよ、俺の背に乗れ」
 犬が不安げな視線をロバに向ける。「大丈夫ですか? お疲れでしょう?」
「いや」ロバは不敵に笑ってみせた。
 不思議だった。仲間が増えるにつれ、目的地へ近づくにつれて、傷つき疲れたロバの体内に、新たな力が湧きあがってくるようだった。
 感情の高ぶりを押さえられなかった。夜空へ喉を向け、力まかせに嘶いた。すかさず犬が後に続く。それに猫の喚きが加わり、最後に、鶏が自信たっぷりに、数時間早い鬨の声を重ねた。
「聞いたか、いまの歌声!」ロバは叫んだ。「行こうぜ、俺たちゃ楽団だ。デサンの奴に、俺たちの演奏をたっぷりと聞かせてやろうぜ!」



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