音楽隊


第4話:ロバと犬と猫と鶏と


 家は静まりかえっていた。ロバの背に乗り、窓から部屋の様子を覗いた犬は、仲間に向かってうなずいた。
「間違いありません、彼です。ぐっすり眠っています」
「早く入ろう! さあ、早く窓を破って!」待ち切れなくなった鶏が叫んだ。
「まあ落ちつけ」ロバが諭した。
「作戦をたてようぜ。こっそり忍びこんだほうが、お客も喜ぶ。猫よ、おまえ、屋根から煙突に潜れるか?」
「まかせといて」
「よし。鶏を連れて中に入れ。潜りこめたら、鶏は警報機を探してスイッチを切れ。猫は玄関の鍵を開けろ。俺は犬と家の周りを見まわってくる。うまくいったら玄関で会おう」
 鶏は怯えることもなく、おとなしく猫の顎に身をあずけた。猫は植木伝いに屋根へ登り、煙突の陰に消えた。
 ロバは犬を背に乗せたまま、家の周囲をぐるりと歩いた。途中の窓で立ち止まり、犬が様子を探る。
「両親です。……目覚める気配はありません」
 ロバはうなずき、玄関へ向かった。扉は既に開いていた。
「簡単だったよ。廊下は明かりがついてたしね」
「あいつの部屋の鍵も開けといたわ」
 ロバは再びうなずいた。全身の毛が逆立つ感触を覚えたが、それが錯覚だということはわかっていた。玄関をくぐり、廊下を抜ける。仲間が後に続く。
 目的の扉は、猫の手によってわずかに開けられていた。鼻先で押し開ける。緊張のあまり痛みは感じなかった。ベッドの脇に立つ。毛布をかぶった少年が、こちらに背を向けて寝息をたてている。
 ロバは歯をむき出して笑った。その背に犬が飛び乗る。犬の背に猫が、猫の背に鶏が飛び上がった。
「やるぜ」ロバが呟いた。「幕を開けよう。演奏開始だ」



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