ウンメイ弄び


第1話:死神の微笑み


ねぇ…あなたは『運命』を信じる?


人は『運命』という言葉を『運命の出会い』、あるいは再会、別れなどに繋げて使うことが多いわね。


あと、そう、
人の一生は生まれてそしていつかは死ぬ。
これも一種の『運命』ね。
でもそれじゃあ、
その人が死ぬまでの出来事が全てその『運命』の『一部分』でしかなくなってしまうわね。

私が言いたいのはその『一部分』。

人はそれぞれ一生の中で、数多の経験・出会い・そして別れなど、
色々な出来事を積み重ねて『自分という存在』を象っていくのよね…。

そして作られていく自分の未来。

最初の頃は漠然とはしていても、
それはやがてはっきりとした形となって、
その『確定した未来』へ人は歩んでいく。

これもまた『運命』の一環と言えるわね。


……でもね?


その『確定した未来』は決して一つでは無いの。

たとえばある一定の才能をもって産まれた子。

勉学の才能…スポーツの才能…芸術の才能など、
それらのいずれかの才能に長けた子に、
必ずしもその才能を活かした将来が待っているとは限らない。

無論、
授かった才能を大事に伸ばし、
その才能に見合った将来を得る者もいる。

でも、
勉学の才能を授かり、
最初はスポーツが全く出来なかった人も、
その人の伸ばし次第によってはスポーツの選手になれる未来の可能性も、
また存在するわけ。


そう、
それは先の見えない無数に存在する分かれ道。

そのとき、
どの道に進むかで先に見える目的地が変わってくる、答えのない、
そして、ある意味ではその人だけが持つ一つの答え。
でも実はその分かれ道も一つではなくて……、
分かれ道の先に分かれ道があって、
その先にも…そしてその先にも……。


人がその『運命』という一つのゴールにたどり着くまでの分かれ道は些細な出来事を含めればきっとその数は無数。

ある人は自分の到達すべき『運命』が見えているのに道を間違えてしまったがために、
最悪の『運命』が待つゴールにたどり着いてしまう。

そしてその人はこう言うのよ。

『あの時、あの選択肢を選んでおけば』

と。

ふふふ……。
あなたにも経験があるのではないかしら?

それを『後悔』と呼ぶ。

人が道を選び歩むということは、
それは同時に時も一緒に歩むということ。


現実世界において時は決して巻き戻らない。

つまりこれをさっきの道で例えると自分が歩んできた道は歩むと同時に消えるということ。

だから選択したあとで後ろを振り返ようと、
それは無意味な事。

既にそれは『過去』でありあなたの思い出の中でしか存在を許されない、
『現在』という針を紡ぎ続ける『時』には無用の長物と言えるわね。


まぁ、
時には救済措置となる道がその後に用意されていることもあるみたいだけど。

受験で例えるなら、
志望校を落としたときの事を考えて、
滑り止めを残しておくようなものかしら?


ふふふ……、
でもこの運命の分かれ道においてそんな道が用意されているのは稀の事。

そんな道が用意されているような人は、
自分が長けた才能のみならず、
他の事にたいしても努力を怠らずに励むことで、
作られる道なのだから。


だって考えてもみて?
産まれながらにして何もせずに、
ただ最低限の生命活動だけしかしていなければ、
それこそ分かれ道などない死へと突き進む一本道しかないのだから。

くすくす……。
極端な例だったかしらね。
でも、
何か経験をすることで、
その人の運命の道には新たな可能性という道が作られていくの。

これがさっきの自分の未来は与えられた才能が決めるとは限らないというところに繋がってくるのだけど、あまり道を作りすぎるのも考えものね。


道を作るということはそれだけ分かれ道も増えるということなのだから。


……さて、
長々と話してしまったけど結局は自分にとって一番いい『運命』を目指した道を選ぶのが最高よね。

そのためにはあえて決して楽でない急坂のような道も時には歩む必要がある。

あるいは回り道なんかもしながら少しずつゴールである自分の未来に向かって歩みを進めていく。


……ふふふ、
結局は何が言いたいのかって?


私が言いたいのは、
それによって得られた未来が自分の『運命』とするなら、
それに手を加えることによって『運命』はどう姿形を変え、
そしてその人にどのような変化をもたらすのかしら……。

『運命』とは移ろいやすいものなのよ。

例えば二つの道があってどちらも目指すあなたの目的地は同じ。
でも選んだ道によっては同じ目的地のはずだったその『運命』が大きく変わってしまう。

あるいは今まで開けていたはずだった道が突然出口の無い袋小路になってしまう……。
この袋小路という状態はその先その人には『道が無い』わけだから終わり……つまり『死』を意味するのだけれどね。

この場合はさっきいったみたいな運命の分かれ道とはまた別の事象。

だって『後悔』なんて感情の入る余地などない生か死の道なのだから。

まぁ…仮に『死』の道を選んだのならそれがその人の『運命』なのかもしれないわね?
それが誰かに仕組まれているとしても……。
ふふふ……あはは……。


そう、
これが私の『ウンメイ弄び(あそび)』。


そうそう、自己紹介がまだだったわね。

私の名前はミューゼルン・クロイツェン。

ミューズと呼んでね……。
口の悪い人は私の事を死神だなんて呼ぶけど…。

うふふ……、
まぁ、あながち間違いでもないけどね。

私は人が願えばその人にとって例え袋小路の運命だとしても、
新たな可能性を用意してあげられる存在なの。

それによって新たな未来…
運命を切り開けるかはその人次第。
人によっては袋小路に入り込んでしまう人もいるようだけど……。

うふふ、その運命の揺らぎを観賞するのが、
この『ウンメイ弄び』の醍醐味なの……。

あなたも一緒にどうかしら?
もし付き合ってくれるなら隣は空いているわ。

さあ楽しみましょう。
人の運命の一幕を……。


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