ヴァディア第2章


第11話:移送の日


ネプトディアへ移送する日がついにきた。
ネプトディアの礼装に身を包んだカルシールは、ゾディアックに乗り込むべくラーズベルトの部下達に囲まれて城の屋上の着艦場に向かっていた。
見慣れた城の風景もこれが最後だと思うと、自然と表情は曇る。
通路を抜け、ゾディアックが着艦している露台に出ると、差し込む陽光に、目が眩んだ。
眩しさに目が慣れると、ゾディアックの搭乗口のそばに大柄な壮年の軍人が佇んでいるのが見えた。
搭乗口に近づいてゆくとその男はまるで山のような大男だった。
「私はレシュナディル・クロイツフェルト将軍です。両殿下は既に搭乗されています」
外見を裏切らない重厚な声は厳格な中に優しさを内包していた。
促されてゾディアックの通路を将軍と進んでいると、広々した部屋に通された。「ラーズベルト殿下から御身をお預かりするように申しつかりました」
「クロイツ…フェルト殿が?」
「はい。ネプトディアで正式にラーズベルト殿下からお話がございましょうが、今はここだけのお話しに致しましょう」
クロイツフェルトが言うには、カルシールはこの将軍の家に、彼の養子という体裁で身柄を置くことになるという。
要するに、クロイツフェルトは監視役を命じられたわけだ。
将軍自らがカルシールを出迎えて、ゾディアック艦内を先導したのは義理とはいえ親子の間柄になるのだから自らが出迎えるのが筋としたからか。監視が目的とはいえ、それをおいても義理難い人だと、カルシールは義理の父親になる人物に僅かながら好感を持った。
それはあくまでもクロイツフェルト個人に対してであり、ネプトディアへの感情とは別になる。
それでも、ガルテアを裏切ったと知る者は言うだろうか。
グウィネスに謀られたとはいえ、言い訳は許されないだろうか。
「いかがされた?」
クロイツフェルトの話しをすっかり上の空にしていたらしい。カルシールは首を振り「すみません、お話ししていたのに。あの、ネプトディアでの私は、どう呼ばれるのですか?」
努めて笑顔で訊ねる。
笑顔を見たクロイツフェルトはそれ以上聞かず言った。
「あなたはカリューナ・クロイツフェルトとなります」
カルシールは暫く黙り、やがて、小さく頷いた。
正午過ぎ、ガルテアからゾディアックがネプトディアへ向けて飛び立っていった。



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