ヴァディア第2章


第14話:凍る砂・3


実験場での事故のことは直ちにラーズベルトに伝えられた。残り4大陸侵攻の計画を練る最中のラーズベルトは兄を補佐していたカーディスを連れて医務室に向かっていた。
「クロイツフェルト将軍には連絡は」
王子2人を先導する下官に兄から半歩距離を置くカーディスが問うと「お知らせしました。直に参られるかと」下官は簡潔に述べた。
「ここからは私とカーディスだけでゆく。ご苦労だった。下がってよい」
ほどなく医務室が近い通路へさしかかるとラーズベルトは下官を下がらせた。
下官の気配が無くなるの見計らってカーディスが口を開く。「おそれながら、1将軍の子息に第一王子が見舞うのはいかがかと存じますが」
「説教か。ここにきて」
ラーズベルトは前を見たままやんわりと言う。
「兄上があの者にそこまでする理由がわかりません」
「エーテル能力があるから私が丁重に扱っていると思うか?」
ラーズベルトは弟を振り返らない。
「実の弟に私をその程度と見られるとは、心外だ」
カーディスを一度も見ようとしない。
逆にそれが兄が静かに憤っていると、全身を突き刺してくるかのような圧力で感じる。
「…で…殿下…」
口の中が渇いて上手く言葉が出てこない。
「純粋なエーテル能力者という理由など愚弄もはなはだしいな。お前は私を補佐する身だろう。その辺りの輩と同程度の質問はするな」
言葉は静かだが、カーディスは見えない力で押しつぶされるのではと錯覚するほどだ。
「も…申し訳ありません…」
「あの者に重きを置くのは…また違う理由があるのだよ」
カーディスは問おうとしたが、ラーズベルトはそれ以上言わず、医務室を目指していった。


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