ヴァディア第2章


第15話:花咲く庭


『暫く休養するといい。貴方は我々によく協力してくれたのだから』
医務室にラーズベルトとカーディスの王子2人が来たことに意識を戻したカリューナはそれだけでも驚いたのに、休暇を出されたのにはもっと驚いた。
それもラーズベルト自らの口から出たのだから。立場を考えれば今は対等な身分でもないのだから、破格の扱いだ。
実験場も事故の影響で暫く使えない状況だと説明をうけたが、ラーズベルト直々に言われるとは思わなかった。
王家の人間が1将軍の子息の面会に来たことに義理の父であるレシュナディル・クロイツフェルトはラーズベルトにとても恐縮していた。休暇があけたらラーズベルト殿下にきちんとお礼申し上げるのだぞ、と言われたが多忙なラーズベルトに拝謁するのがいつになるやらだ。カリューナだって父に言われずともわかっている。
クロイツフェルト邸のととのえられた庭を侍女のメリア・ルティを伴い散歩するのがカリューナの楽しみだった。
「カリューナ様、そろそろ戻りましょう。お茶をご用意いたします」
メリアはクロイツフェルト家にカリューナが来てから、彼の世話をしてくれている。10代後半の若さながら、よく働いてくれていた。
「カリューナ様?」
動かない小さな主人にメリアが伺いをすると、寂しそうな横顔でカリューナは花を見入っていた。
「あ、ごめんなさい。戻りましょう」
メリアの視線に気がついたカリューナはすぐに笑顔を作った。
「今日のお菓子は何が出てくるの?」
「カリューナ様のお好きな苺のタルトでございます」
「それは楽しみだな」
歩き出すカリューナの後ろ姿をメリアは痛々しく見つめていた。
「ねえ、メリア」
「はい」
「また休みがとれたら、一緒にお散歩してくれる?」
「はい、わたくしでよろしければ」
メリアの言葉にカリューナは嬉しそうにうなずいた


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