ヴァディア第2章


第16話:花咲く庭・2


「ルヴィス様、危のうございます!おやめくださいませ」
顔面蒼白な下官達を尻目に10歳になったばかりのネプトディア第3王子ルヴィス・ネプトディアは庭園に植えられてある緑樹によじ登っていた。社交界のマナーだの礼儀作法だの面倒くさいことに付き合ってやっているのだから、自分の好きなように遊ばせろ。
張り出した太い枝に跨り、樹の下であたふたするしかない大人達を面白そうに見おろす。
「お前たちも上がってこい。ここから庭をみるのもなかなかいいぞ」
「ルヴィス様ぁっ」いい大人がすっかり泣きそうになっている。王子である自分が怪我をすれば叱られるどころではなくなるのだから、泣きたくもなるのだろうが、ただでさえ窮屈に生きているのだから、これくらいおおめにみろというものだ。第一ここは自分のすむ宮殿の庭だ。本殿や他の宮殿でこんなはしたないことをするほど分別がつかないわけがない。黒髪に蒼い水晶のような瞳を持ち、聡明な顔立ちをした子供だった。
悲喜こもごもな大人達をよそに高見から豪華な庭を眺めていると「また下官たちを困らせてるんですか?殿下」
10代後半の若い少年が呆れる様子もなく緑樹の下へやってきた。
彼はディオール・ファントス。サーバントS『フェンリル』の適合者だ。
「西の制圧ミッション終了。帰ってまいりました」
慌てふためく下官達をよそにこちらもさらりと一礼してみせる。
「心配はしてなかったよ。お前は強いからな」
「それは誉めているのですか」
ディオールは腰に手を当て、端正な顔立ちに笑みを浮かべる。
「もちろん誉めているとも。心配されて欲しかったのか?」
「僭越ながら、私は殿下の友人です。友には心配されたいと思いますが」
いたずらっぽく笑うルヴィスに、ディオールも笑いながら軽口を言う。
ネプトディアの6大陸侵攻、西大陸をようやく終了か。緑樹の上でルヴィスは急勢に動くネプトディアに疑念を抱く。何をそこまで急いでいるのかと。


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