ヴァディア第2章
第21話:ルヴィス・ネプトディア3
「落ちないで下さいよ、ルヴィス殿下」苦笑いしながら、見上げるディオールと、その横で呆然とするしかないカリューナの視線の先には張り出した枝に跨るルヴィスの姿があった。
「庭を案内するとは始めから信じてなかったが、本当に木登りするとはさすがはルヴィスだ」
「…いいんですか…お止めしなくて」
「止められるものならとっくに止めてるよ。あの方はこれ位でいいんだ」
にこやかにディオールに言われ、カリューナは唖然とした。「しかし、父上やディアス閣下に見つかれば咎められてしまいますよ」
「いいんだよ、そん時はそん時で」
「………………」
軍属の人間の言うことだろうか。しかも随行員だろうに。
王子の護衛どころか、やりたいようにさせすぎでは…。しかも胸の階級章は少尉なのに。…少尉?
「ファントスさんは少尉だったのですか?!」
「んーまあね。ホントは少尉クラスじゃ王族の護衛なんてできないんだけど、あの方直々の御指名だったんだ」
まあ、キッカケがすごい恥ずかしいもんだったしな…とディオールは頬を掻いた。
「縁てやつかな。なんか無いとルヴィス王子のような方に出会うなんてことないからさ」
「少尉はルヴィス殿下にとって信用のおける御仁と、殿下が信用をおいておいででなのですね」
ディオールは息を吐くように笑うと、
「甘えておいでなだけだよ」
カリューナの緑の瞳がディオールを映して笑う。
「信用のおける人が側にいるのは良いことです。ルヴィス殿下は良い人に会えたんですよ」
「お前ってさ…」
ディオールがルヴィスから目を離さないまま言う。
「名家の坊ちゃまって割にはジジ臭いぞ」
「は?」
「どんな目合ってきたかは知んないが、年相応じゃない」
顔を強ばらせるカリューナを横目でニヤリと見やり、ルヴィスへ声をかける。
「殿下、カリューナ殿がご一緒したいそうでよ。よろしいですか」
下を覗き込んでいたルヴィスはまたニヤリと笑い頷いたのだった。
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