ヴァディア第2章


第22話:深緑の闇


散々カリューナは辞退を申し出たが、上からルヴィス、下からディオールに強引に支えられて庭園の緑樹に登るというある意味での名誉を得た。
張り出した太い枝に王子とともに跨る事態にカリューナは恐縮するしかない。
「どうだ。バルコニーよりも良い眺めだろう」
カリューナが落ちないようさりげなく幹に背中を預けさせたルヴィスは楽しげだ。一方カリューナは楽しむどころではない。自分もかつてはおかれていた身分の人の破天荒ぶりに呆れ、いかに諫めて降りてもらうか思案を巡らせた。
「庭園は1つの世界だ。そう庭師が設計して造り上げた。観賞の仕方は自由だろ」
深青の瞳は広がる庭園を移し、カリューナは諫めるための口を開けなかった。
「世界は設計者によってどうとでも変わっていく。より気に入ってもらえるように。でなければ壊されるだけだ」
すい、と指がある一角を指す。追った先には扉のない門をかたどったアーチが佇む。
「俺はあの向こうの庭が特に好きだ。特別な日にしか入れないけど、落ち着くんだ」
「特別な日?」
「ネプトディアの守護神聖獣ジヤフを祀る祭典の日だ。その日だけは、祖ネプトディアの一族達が集まり、祭祀を行う。クロイツフェルト家もそうだったな」
七色に煌めく甲輝を背負う巨大亀…カリューナは頷いた。
祭祀があることも義父から聞いていた。ガルテアには聖獣カルシーラがあった。祭典は護られているだろうか…故郷が偲ばれてならなかった。
「なぁ、お前俺のガーディアンにならないか?」
「は?!」
突然の話にカリューナは木から落ちそうになった。
「祭祀の日にネプトディアの王家はガーディアンを任命することができる。2人までだ。俺はガーディアンにディオール・ファントスを、そしてお前を任命したい」
「恐れながら、私は殿下とお会いしたばかりです。それに、私は殿下のガーディアンには相応しくは…」
「俺には味方がいない…腹を割って話せる友が欲しい。誰も、そばに居てくれないんだ」
深青色のあまりの寂寥さにカリューナは言葉が出なかった。そして自身に震えた。
これを利用しない手はないと思う自分に。


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