ヴァディア第2章


第30話:仮面


父親とはいえネプトディアの王であるネブラスカに会うのは実の息子でも容易ではない。
王の公務以外にも聖獣ジヤフの祭祀が近いため、祭祀の準備も行わねばならず多忙なのだ。
どうにか面会は取り付けられた。
王の執務室に通されたルヴィスは、そこで執務を行う父を見る。
相変わらず仮面は着けたまま。
子供にさえ素顔を見せない。臣下達にさえ。
だが彼はネプトディアの王としてこうして今日もここにいる。
ネブラスカが仮面を着けたのはルヴィスと同じ年の頃と母親に聞かされた。
聖獣ジヤフの庭で起きた事故が原因と母親に聞かされたがその事故の事については母親は語らない。むしろ思い出したくないかのような顔さえしていた。
だが最低限息子には父親が仮面で顔を隠す理由を話しておこうと決めたのだろう。
「陛下。ネプトディア第3王子ルヴィス・ネプトディア参りました」
執務の王にルヴィスは一礼する。
「顔を上げなさい。なかなか会えなくてすまなかったね」
仮面の奥の眼差しはとても柔らかい。
「いえ、私が無理を申し上げたのです」
「子供が親に会うのは当たり前な事だよ」
ネブラスカはペンを置くと、部屋の中央のソファを勧めた。侍従が手際良く2人分の茶を用意する。
「久しぶりなのだし、ゆっくり話そう。休憩もしたかったからね」
長居を暗に示され戸惑う息子にネブラスカはソファに腰を下ろして柔らかく言う。
「最後にゆっくり会ったのはいつだったかな?1日の議会や定例の議は話しもできなかったし」
「私の7歳の誕生日を祝っていただいた時が最後でした」
「そうだったかな」
どこから水分が入るのか、ネブラスカは仮面をしたまま普通に紅茶のカップを口辺りに運んでいる。
「そうか。あれ以来ろくに祝ってやれてなかったな」
「誕生日の度に贈り物をいただいています。陛下には感謝しています」
「物だけ送って、父親の義務を果たしたとは思ってないよ。家族で祝ってが当たり前だろう」
紅茶のカップをソーサーへ戻し、ネブラスカは仮面の奥の瞳で息子を見る。
「ルヴィス、ここでは親子としてで話そう。ずっと主従で話すよりもね」



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