ヴァディア第2章


第32話:水の一族


「それで叔父上は辞退もなさらず、あいつをガーディアンにすると承諾なさったのですか!」
まだ20代とおぼしき青年が怒りを隠そうともせず、一国の将軍に食ってかかっていた。
「アルクレイよ。ルヴィス殿下のご推薦であり、陛下と議会の承認を得た。誉れでありこそすれ、辞退の理由が無い」
クロイツフェルト将軍は自分の執務室に先触れもなくやってくる程怒り浸透の甥を困ったように見やった。
「どうせあの節操無しのディアス卿の根回しでしょう!でなければ叔父上がそんな話受け入れるはずはない」
「口が過ぎるぞ!アルクレイ!」
アルクレイ・クロイツフェルトは将軍の一喝にも怯みもせず端整な顔を歪め睨み付ける。
「本家をあんな出自も分からない奴に継がせ、今度は王子のガーディアン。叔父上の考えが分かりませんね。本家は僕が継ぐと、父と話し合っていたではないですか」
アルクレイは跡取りのいない本家を継ぐのだと父から聞かされてきた。叔父の死後は全てを得ると思っていたのに、あの日あんな奴を叔父が連れて来なければ!
「勝手に一族で結論づけるな。陰でコソコソしているというなら、血は争えなくはないかな」
「屁理屈ですね。本家を継ぐのに絶対なのは血統、家系でしょう。」
「クロイツフェルト家の存在の意味は希薄化したかな」
「は?」
「一族がリヴァイアサンを召還できなくなりどれくらい経つ?一族の存続にはリヴァイアサンが必要なのを忘れたか?」「!!!!」
「本家本家と愚か者らが」



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