ヴァディア第2章


第5話:包囲


ネプトディアとの和平交渉が決まったのはひと月前の事で、カルシールがサーヴァント『S』ミネルヴァに適合して数日のことだった。
精彩を欠くガルテア国王にあくまでも味方の随行員として行動するよう命じられた。
ミネルヴァはシリーズ化されているとはいえ『D』サーヴァントでは『S』ミネルヴァの能力には及ばない。
『S』サーヴァントが背後に控えてこそ、ネプトディアも下手なことはできない…王族としての務めだとは分からなくもない。
ミネルヴァ搭乗用のスーツを着て、出発の時を待つ小さな体は緊張していた。
激励を父と母、そして腹違いの姉にされたが実戦経験がないだけに、戦闘状態になった時にどこまでやれるのか…。
「殿下、ミネルヴァにご搭乗を」
かなり考えに耽っていたらしい、カルシール付きの若い軍人の声に我に返る。
サーヴァントは腹部から乗り込む。
ミネルヴァは三重の防御ハッチを開き、機械で埋められたコクピットを見せていた。
シートに座し、グリップを握るとハッチが閉じ、コクピット内の全周辺透過モニターが起動し、機体の外の様子が丸映しになる。
〈生態マグネタイト正常値、パイロットとミネルヴァに影響無し〉
マグネタイト供給用パイプとチューブがパージされ、装甲フレームというよりもまるでドレスを連想させる優美な機体がハンガーに立つ。
ミネルヴァを含む一団を乗せた小型艦が、ネプトディアの母艦ゾディアックへ出立して行った。
ネプトディアの母艦ゾディアックは圧倒的な威圧感を放ち、彼らを出迎えた。
ハンガーへと誘導される交渉団をミネルヴァ『S』とミネルヴァシリーズたちが見送った。
母艦の周辺には当然、ネプトディアのサーヴァント達も配置されている。
押しつぶされそうな圧迫感に、カルシールのグリップを握る手が震える。
王子としての自覚で耐えているが場の空気に飲まれてしまいそうだ。
サーヴァントを待機させたまま艦内で1時間が過ぎた頃、控えていたミネルヴァ『D』シリーズがぐるりとカルシールのミネルヴァを取り囲んだ。
「何!?」
問い掛ける前に、機体を『D』シリーズたちのエーテルチェーンが絞め上げてきた。
とっさのことにカルシールは対応できず、『S』ミネルヴァの防御を発動する前に、エーテルチェーンの衝撃に意識を失った。
「グウィネス様、カルシール王子捕縛しました」
『D』ミネルヴァ副官機から乾いた報告がなされた…。


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