ヴァディア第2章


第7話:対面


ガルテアが陥落し、数ヶ月が経過した頃、元ガルテア王子カルシールはネプトディアの王子2人と対面した。
執務室はかつての国王の部屋、雑然とした様が執務の慌ただしさをつたえる。
執務机に座るのラーズベルトは部下に連れてこられたカルシールのもとに自らやってきた。
真冬の夜に浮かぶ月のような薄いブルーの瞳が、やんわりとカルシールを見詰める。
「お前たちは下がれ」
視線をカルシールから外さないまま、部下に執務室からの退却を命じると彼らは一礼して部屋を後にした。残ったのはラーズベルトとカーディス、カルシールの3人だけになる。
「あの頃よりお元気そうだ。執務がたて込んでしまいなかなかお会いできず申し訳なかった」
「いえ…ガルテアの修復が最優先です。ガルテアの人達がきちんと生活できるようしてくださったことにお礼を言います」
単なる民意統制だ、カーディスは兄の傍らに控え心の中で嘲笑する。
まだ7歳、しかも身内に裏切られたのが堪えたのかしばらく伏せってしまう脆弱さは子供だ。
この弱さで腹違いの姉エフェミアと王位を競わせようとした派閥の狙いは自分達の人形化だろう。
ガルテアが崩壊した今では叶わなくなったが。
「ラーズベルト殿下、お話とは何ですか?」
世間話は切り上げたいらしい。かわいげのないガキだとカーディスが思っていると、気分を害した様子もないラーズベルトは遠回しはせず、単刀直入に用件を口にした。
「ガルテアの情勢も落ち着いてきた。私の後任の人事もめどがついたし、ネプトディア本国に戻ることになった。もちろん君もね」
カルシールの体調が万全なら身柄は本国に移送することになっていたのだ。ネプトディアを王子2人がいつまでも留守にするわけにもいかない。彼らにも腹違いの弟がいるが、歳はカルシールとそうかわらないまだ子供だ。
「わかりました。」抵抗するかと思いきや、カルシールはすんなりと受け入れた。覚悟を決めたと言うより、他に選択肢がないのを理解しているのだろう。
ネプトディア本国へ行けばカルシールは名前も素性も彼らが用意したものになり、その人物として生きていくことになる。
「出立の日時はまたこちらから連絡する」
「はい。」
カルシールに怯えているふしはない。
濃い緑色の瞳はただラーズベルトを映すだけだ。
カルシールは、再び部下たちたちに連れられて部屋をあとにしていった。


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