ヴァディア第2章


第9話:刻印


眠れぬ夜を過ごし、空が明るくなりだした頃になってようやくカルシールがうとうとし始めた時、ノックもなく挨拶もなく、扉が静かに開いた。
「誰だ!?」
部屋の前には一応、建て前は護衛という見張りが2名着いているはずだ。そうそう朝早くから、誰かを通すとは思えない。いつでも雷撃できるように構え、来訪者が入ってくるのを待つ。
まだ薄暗い部屋で、来訪者を見たカルシールは顔をこわばらせた。
「グウィネス!」
怒りの声とともに雷撃の雨が、来訪者に降りかかる。
純粋なエーテル能力者はデバイスを必要としないため、力の発動のタイムラグがない。
部屋中を砕き、焼き尽くす雷撃の中でしかしグウィネスは泰然としていた。雷撃が、彼に届いていなかったのだ。
「貴方程ではないが、私もエーテル能力者ですよ。貴方相手だとデバイスの補助が必須ですがね」
そう言って掲げた左腕には事象変化補助装置〈エーテルデバイス〉が取り付けられていた。さながら籠手のような代物だがこれがなくては人はエーテルが使えない。
「会いたいとは言ってない!さがれ!」怒気で顔を紅潮させ、声を荒げるカルシールにグウィネスは首を横に振る。
「貴方がそうでも私には貴方に会う用件がある。外の見張りには暫く眠ってもらいました」
錆色の細い瞳がカルシールを映す。
「私はない!さがれと言っただろう!」「エーテルは駄目ですよ。」
デバイスを壊そうとするカルシールを見えない圧力が部屋の中央まで跳ね飛ばした。
「貴方がまだ子供で良かった。純粋なエーテル能力者は成長していくと厄介ですから」
衝撃と痛みでうずくまるカルシールのそばにグウィネスはしゃがみ込んだ。
「貴方に呪印を施しにきたのですよ。ネプトディアの方々に楯突かないように」
問おうとするカルシールに構わずグウィネスは左手をカルシールの背中に当てる。瞬間カルシールの全身が跳ねる。想像を絶する苦痛に彼は悲鳴を上げた。



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